イケメンや美人は得をするのか【心理学から読み解いてみる】

こんにちは伊勢です。

このブログではビジネス、教育、恋愛など皆さんの周りに起こる様々な現象を心理学的に考察していきます。

今回のテーマは「イケメンや美人がえこひいきされるか」についてです。

心理学的にはイケメンや美人のことを「外見的魅力がある人」されています。

外見的魅力もその人の立場や評価する人の好みによって変わってくるので、周りからイケメンと言われている人が必ずしもみんなが思うイケメンであるとは限りません。

ただ外見的魅力がある人が外見的魅力のない人よりも得をするかについての論争は噂程度の話ですが、よく耳にします。

果たして外見的魅力がある人は本当に得をするのでしょうか。

得をする、損をするというのはいろんな要素がありますが、外見的魅力がある人の方がそうでない人に比べて、初対面の人からは優しくしてもらえる傾向があるようです。

外見的魅力がある人がが初対面の人から優しくされることを明らかにした研究がありますのでご紹介します。

ベンソン(1978)はイケメンや美人が他人から親切にしてもらえることを実験を通して明らかにしました。

 

実験内容
①持ち主の顔写真が貼ってある書類を公衆電話のブースにわざと置き忘れる。
②持ち主の写真は「A イケメンな男性」、「B 美人な女性」、「C そうでもない男性」、「D そうでもない女性」の4つのパターンで、書類には切手が貼ってあり、あとは投函すればよい状態になっている。

 

【実験結果】
①計604名(男性442名、女性162名)の公衆電話の利用者のうち書類をポストに投函してもらえた割合は「A」と「B」が47%、「C」と「D」が35%となった。
②どちらの結果にも男女差はなく、顔立ちが整っている男女の方がそうでもない男女より他人から親切にしてもらえることが明らかになった。

 

ベンソンの研究によって、外見的魅力のある人の方が外見的魅力のない人よりも初対面の人に親切にされるということが明らかになりました。

ただこの研究では、初対面の人に限っています。

たとえ外見的魅力自信がなくても、コミニケーションをうまくとることができれば、相手との信頼関係を築くことができ、他人から親切にしてもらえる事は大いに可能です。

人の印象というのはいろいろな要素が絡み合って決まります。

大事なのは、事実を受け止めることにあります。

事実を受け止めることで、次の対策や一歩が踏み出せます。

しかし、今回の研究に限っては、外見的魅力がある人の方が得をすることを確認しましたが、他の研究では外見的魅力が時にマイナスに運ぶこともあるようです。

こちらもまた次回のブログでご紹介します。

皆さんの学びをお手伝いができれば幸いです。

 

【参考文献】

Benson, P. L., Karbenick, S. A., & Lerner, R. M. 1976 Pretty please: The effects of physical attractiveness, race, and sex on receiving help. Journal of Experimental Social Psychology, 12, 409-415.

才能教育の決定版【学術的根拠あり】

こんにちは伊勢です。

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本日のテーマは「才能開花」についてです。

皆さんは「才能」と聞くとどんなイメージをもちますか?

生まれ持って備わっているもの。

努力ではどうにもならないもの。

運によって手に入れられるもの。

自分には才能なんかないと落ち込んでいる人も多いと思いますが、最近の研究では才能は生まれもったものよりも、環境によってその才能を獲得し開花させる方が圧倒的に多いことが明らかになっています。

例えば才能開花における研究として、とても有名なのは1万時間の法則です。

ある物事を1万時間続ければ誰でも才能が開花してプロフェッショナルになれるというものですが、これは少し語弊があります。

才能開花において先進的に研究をしていたのがブルーム(1985)とエリクソン(1993)です。この2人の研究によって才能教育の研究は一気に加速度を上げました。

では2人の研究による才能開花における条件を見ていきましょう。

 

【才能開花に必要な条件とは】
①才能を開花させるためには、特定の分野に対して高度に洗練された練習活動(deliberate practice)を行う必要がある。
②そのdeliberate practiceを1万時間行えば才能を開花させることができる。
③deliberate practiceを1万時間行うには適切な目標設定と支援が必要である。

 

ここで大切なのはただただあることを1万時間行うだけでは不十分だということです。

1万時間というのは非常に長い時間です。

1日3時間毎日練習したとしても10年かかる計算です。

例えば野球が上手くなりたいとしたとして、素振りだけを毎日3時間を10年続けたとしても本当に上手くなるでしょうか?答えは「ノー」です。

野球が上手くなるためには走力も筋力も鍛えなければいけませんし栄養面や心理面からも鍛える必要があります。

つまりその人が才能を開花するために必要な環境を設定することが必要なのです。

もちろん練習活動はただただスキル獲得に向けた活動だけではありません。

私が昔、研究対象としていたやり投げの全日本学生のチャンピオンの男の子がいました。

彼は朝起きてまず自身の投げのイメージを作り、その日一日中歩く時の足の設置や体のひねりなどずっと動きを意識していました。

使えそうな動きがひらめいたら即座にメモを取り練習で試していました。

夜寝る前はその日行った練習の復習をして良いイメージを持ってベッドに横になるそうです。

彼にとっては寝ている間も含め24時間自身の競技と向き合いスキルを獲得した結果、日本一まで登りつめた言えるでしょう。

こういう話を聞くと、才能を開花させたと思っている人たちは誰よりも努力をし、誰よりも犠牲をはらって今に至っています。

そういう人たちに対して、

あいつには才能があったからあそこまでいけたんだ。

と、軽々しく思うのはむしろ失礼なことかもしれません。

 

努力は必ず報われる

 

という言葉がありますがますが、これには少し言葉を足さないといけません。

 

適切な支援と環境設定と方向性を伴う努力は必ず報われる

 

誰しもが持ち得る才能開花をさせられるような情報提供もしていけたらいいなと私自身思っています。

 

【参考文献】

① 1万時間の法則については

Bloom,B.S.(1985)Developing talent in young people. New York : Ballantine.

② deliberate practiceについては

Ericsson, K, A., Kramp, R, T., and Clemens, T, R.(1993)The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance,Psychological Review 100(3):363-406 .

 

 

こどもに「やる気」を出させるほめ方とは?【学術的根拠あり】

こんにちは伊勢です。

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本日のテーマは「こどもの褒め方」についてです。

子育を考えるとき、

どのように声かけをしていいのか

どのように接してあげればいいのか

悩まれている保護者様は多いと思います。

最近では体罰問題や情報の散乱などで混乱する方も多いと思います。

こどもに本当に必要なしつけとは何か?

こどもの能力を伸ばしてあげるためにどのようにして接してあげれば良いのか?

考える事は枚挙にいとまがありません。

今回はこどものやる気を引き出す「褒め方」についてのお話です。

最近では、「こどもを褒めて伸ばす」と言うキャッチフレーズの下、すべてのこどもの行動や発言、成果に対して褒めると言う風潮が出ています。

しかし、教育における心理学の世界ではただただこどもを褒めれば良いわけではなく、褒め方によってこどものやる気や能力、物事に対しての積極性が変化してくるという研究があります。

ここで、子供の褒め方について面白い研究がありますので見ていきましょう。

褒め方の違いがこどものテストの点数にどう影響するのかをミューラー(1998)らは実験よって検証しました。

 

【実験内容】
① こどもたちにIQテストを3回実施する。
② 1回目のテストが終わった時に褒め方で2つのグループ「能力を褒める(頭が良い)」、「努力を褒める(よく頑張った)」に分けた。
③ 2回目のテストは難しく、3回目は1回目と同じ難易度のものを実施した。

 

【実験結果】
① 3回目のテストの結果は1回目のテストと比べて、「能力を褒められた」グループは成績が低下し、「努力を褒められた」グループは成績が上がった。
② 「能力を褒められた」グループは問題を解く前に「自分の能力で解けるのか」を判断し、「努力を褒められた」グループはテストの難易度にかかわらず粘り強く問題と向き合う傾向がみられた。
③ 褒め方の違いでこどものやる気に違いが出ることを証明している。

 

ミューラーの研究ではこどもの出した「成果」よりも、その成果に向けた「過程」を褒めてあげることがこどものやる気につながることを証明しています。

よく「結果がすべてではなく過程が大事」とは言いますが、なんとなく印象として良いとされていることがこの研究によって明らかにされました。

ただ、過程を褒めるのは簡単ではありません。

過程を褒めると言う事は、具体性を持つことです。

具体性を持つということは、こどもをしっかり観察しないとできません。

観察するためには、大人もこどもと同じ課題認識を持たないと何が重要で、何が必要なのか、がわからなくなるのです。

過程を褒めると言う事は、結果としてこどもに目を向け、「こどものために何が必要なのか」を大人が考える時間を設けることになります。

大切なお子様の成長のために努力する事はご自身の成長にもつながります。

私もぜひ、お子様のために保護者様とともに成長していきたいと考えております。

少しでも皆さんの成長のお手伝いができると幸いです。

 

【参考文献】

Mueller, C. M., & Dweck, C. S.(1998)Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75, 1,33.

 

要求を通す交渉術【学術的根拠あり】

こんにちは伊勢です。

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今回のテーマは「要求を通す交渉術」です。

ビジネスの世界ではギャランティーや仕事の役割分担など交渉がつきものです。

この交渉によって後の仕事のやりやすさや立場が決まってきます。

巷にあふれるマナー講座や心理学本にも仕草や言葉遣い、要求の手順など交渉の時に使えるスキルが書いてありますが、本質的な心理面についてはあまり書かれているものがありません。

では、私たちは交渉を行う際、どのような心構えで交渉を行うのが良いのでしょうか?

講師を行う際の心理的について面白い研究があるのでご紹介します。

 営業先や取引先などで交渉を行うときは、相手の立場になって譲ることも必要であることとをコッペルマン(2006)は実験を通して検証しています。

研究の内容を見てみましょう・


【実験内容】
①実験対象者は274人の大学生に2人1組になってもらい、取引先と交渉役に分かれる。
②交渉役には「頑固に対立を恐れず交渉」、「パートナーと仲良くなって交渉」の2つのパターンで交渉してもらう。
③交渉後、どちらのタイプが「将来一緒に仕事をしたいか」選んでもらう。

 

【実験結果】
①結果として「一緒に仕事をしたい」と選択された割合は「パートナーと仲良くなって交渉」の方が「頑固に対立を恐れず交渉」よりも高かった。
②西洋問わず、一時的な勝利や成功よりも、パートナーシップの重要性を説いている。
③仕事で交渉を行うときは、相手の主張を肯定しながら相手の譲歩を引き出すことが必要である。

 

この研究の面白いところはその場の交渉の成立や不成立だけでなく「一緒に仕事をしたいか」という観点から調査を行ったところです。

ビジネスはもちろん、教育や恋愛も人とのかかわりの中で生まれる産物です。

特にビジネスの世界ではその場の交渉も大事ですが、長期にわたって売り上げを出すことも非常に重要です。

売り上げを上げるために何をすれば良いのか

どのような心持ちで交渉を行うのが良いのか

この研究では友好関係を築いてから交渉行うのが良い良いとされています。

もちろん、人と友好関係を結ぶためのスキルも心理学の世界では存在します、それはまた別の機会にお話ししたいと思います。

皆さんの学びのお手伝いに少しでもお役に立てれば幸いです。

 

【参考文献】

交渉時の心構えについての文献は

Kopelman, S., Rosette, A. S., & Thompson, L.(2006)The three faces of Eve: Strategic displays of positive, negative, and neutral emotions in negotiations. Organaizational Behavior and Human Decision Processes, 99, 81-101.

 

 

寄付金を多く集めるには【学術的根拠あり】

皆さんこんにちは伊勢です。

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今回のテーマは少しビジネス寄りになりますが、

「寄付金を多く集めるには」というテーマでお話しします。

読者の中にはご自身で商売をされていたり、寄付金とまでは言わないまでも会費や貯金、募金等々、ある一定の金額を集めるために苦労した経験をお持ちになられる方もいると思います。

なかなかお金を他人から集めるのはストレスだったり、プレッシャーだったり、なかなか良いイメージを持ちづらいのも正直なところです。

例えば、寄付を募る時(募金活動やクラウドファンディングなど)、何が違うと寄付金の額に影響があるのでしょうか?

寄付金を多く集める企画の違いはどこにあるのでしょうか?

テーマやキャッチコピー、リターン(赤い羽根や商品等)などなど、いろいろあると思いますが、ここではお「金の集まり具合の違いの示し方」によって寄付金の集まり具合が違うという研究を紹介します。

 

ジョンら(2002)は寄付金を募る際、寄付金の集まり具合をどの程度公開すれば、寄付金が集まりやすくなるのかを調査によって明らかにしました。

 

【実験内容】
① 1台3000ドルするコンピュータを買うお金の寄付を募る。
② お願いの方法を5つのパターンに分けた。

a. 費用の10%は調達できている

b. 費用の33%は調達できている

c. 費用の67%は調達できている

d. お金が集まらなかったら組織の活動資金にする

e. 資金が集まらなかったら返金する

③寄付金を募る際のお願いの仕方を変えることによって、寄付金の集まり方に違いは出るのか?

 

実験結果
①結果として、「 c. 費用の67%は調達できている」とお願いする方法が最も寄付金を集めた。
②寄付者に対して寄付しやすい金額をあらかじめ見せておくことを「種銭(シードマネー)」という。

 

寄付金を募る内容も金額も一緒であるにも関わらず、寄付金がどのぐらい集まっているかを提示するだけで寄付金の額が違ってくることは内容や額はもとより、

「この企画はどれぐらい集まると成功するのか」

自分の寄付金によってこの企画が成功するかもしれない

というような期待感や、責任感にも似た感情で人間は寄付をしていることがわかります。

人間の行動の意思決定は最終的には「感情」です。

この感情を揺さぶれるような「後押し」のことを「シードマネー」と呼びます。

うまくシードマネーを活用することができれば寄付金の額は多くなります。

もちろんシードマネーの存在だけが寄付金の額決める唯一の要因とはなりませんが。

しかし、同じ企画であっても条件が違うことで、人間の行動が変わってくるという事実は心理学を学んでいてとても興味深く大きな発見です。

何かビジネスを行っている人は価格設定をする際、価格の高低だけでなくシードマネーについても考えられるとより価格設定が行えると思います

皆さんの学びに少しでもお力添えができるよ私も研究の日々です。

 

 【参考文献】

シードマネーについての文献は

John A. List and David Lucking – Reiley(2002)The Effects of Seed Money and Refunds on charitable Giving : Experimental Evidence from a University Capital Campain. Journal of Political Economy(110). pp.215-233.

恋はタイミングが重要か?【科学的根拠あり】

こんにちは伊勢です。

このブログでは、ビジネス、教育、恋愛など皆さんに起こる身近な現象について心理学的に考察していきます。

今回のテーマは恋愛における「タイミング」についてです。

恋はタイミング!なんてよく聞きますが、皆さんには恋愛で「タイミング」を痛感するできごとはありましたか?

「出会う順番が逆だったら、彼と付き合っていたのに」

「彼女に告白していれば今は結婚できていたかも」

「今連絡したら迷惑かな」

好きな人ができたときにタイミングについて考えた人は多いと思います。

出会うのがもっと早ければ、とか自分に恋人がいなければ、のような「状況」についても考えることがあったと思います。

心理学的にいうと、人間が恋愛をするのは「自己成長」や「生命維持」など、付き合うことによるメリットが大きいことがあげられ、恋愛をすることは人生に彩りを加えてくれます。

しかし、本当に恋愛にはタイミングが存在するのでしょうか?

絶対的なタイミングは存在しませんが、好きな人と恋人関係になりやすい時期や時間帯についての研究はあります。

ここで恋愛のタイミングについての研究をまとめてみましょう。

告白が成功したり、失敗したりするケースの違いについて栗林(2004)は大学生を対象に調査を行いました。


【調査結果】
①告白の成功率は知り合って3ヶ月以内にするのが一番高い。
②逆に知り合って1年以上経過していると告白が失敗する確率が高くなる。
③告白する時間帯は18時~23時がベスト。
④告白の際は好意と申し込み事項をはっきり対面で伝えるのが効果的。
⑤好意と申し込み事項とは「好きです(好意)。付き合ってください(申し込み事項)」という感じ。

 

栗林の研究によって男女が恋愛関係に至るには「鮮度」が大事であることがわかりました。

私個人としては3ヶ月はあっという間に感じますが、たしかに年度が変わって夏前に恋人ができたという話はよく聞きます(自身の経験ではないので感覚的にもよくわかりませんでした泣)。

年度始めから夏にかけてカップルできやすいと言うのは研究でわかりましたが、では逆に、カップルが別れるタイミングが多い時期はあるのでしょうか。

もちろん研究されています。

大坊(1988)は恋人関係にある男女が別れやすい時期を大学生を対象にした調査によって明らかにしました。

 

【調査内容】
① 男女が別れやすい月は男女とも「3月」で全体の4割近くを占めた.
② 次に別れが多い月は女性では「6月」、男性では「8月」となっている.
③ 3月に分かれるカップルが多いのは就職や進学などによる「環境の変化」が大きい.

 

なるほど、大坊の研究によれば、時期よりも環境の変化によって物理的な距離ができたり、不安や期待といった感情的な起伏が大きいのも別れの要因だととらえられます。

人間が恋人を作るのは精神的な安定を求めるからであり、恋人がいたとしても不安な要素が大きければ恋人関係を主解消するといった手段も選ぶことになるかもしれません。

もちろん必ずその時期が来たら別れるというわけではありません。

関係を維持するために、お互いできることがたくさんあります。

お互いの良好な関係を維持するための方法は、またの機会にブログでお話ししたいと思います。

皆さんの悩みや不安に思っていることを少しでもこのブログで解消できれば幸いです。

 

【参考文献】

告白が成功するタイミングについては

栗林克匡(2004)恋愛における告白の成否の規定要因に関する研究. 北星学園大学社会福祉学部北星論集.41.pp.75-83.

カップルが別れるタイミングについては

大坊侑夫 1988 異性間の関係崩壊についての認知的研究 日本心理学会第29回大会発表論文集, 64-65.

「手抜き」について心理学的に考察してみる【科学的根拠あり】

こんにちは伊勢です。

このブログでは、ビジネス、教育、恋愛など皆さんの身近にある現象を心理学的に考察していきます。

今回のテーマは「手抜き」についてです。

心理学的な「手抜き」とは「個人の作業効率が落ちること」を意味します

誰しも一度は経験があるかと思います。

勉強や仕事でも疲れてくれば少しは手抜きをしてしまうかもしれません。

弟や妹と遊んでいて手加減をするのも手抜きの1種でもあります。

今回は手抜きについて話をしますが、決して悪いことではなく、作業効率がどういう時に落ちるのかを心理的な知見からお話しします。

例えば皆さんの経験の中で大人数で作業するとき、「自分の作業の役割が小さいな」とか仕事量が少ないな」と感じた事はないですか?

1人で作業を行ってかかる時間が2人で行った場合は本当に半分の時間で終わるか?

3人で3人で行った場合は本当に 1/3 の時間になるか?

答えは「ノー」です。

大人数になればなるほど作業効率が落ちてしまうことを「社会的手抜き現象」といいます。

社会的手抜き現象について面白い経験研究があるのでそれを紹介します。

複数で課題を遂行しようとする際、1人当たりの課題遂行量が無意識のうちに減少してしまうことをラタネら(1979)は実験によって明らかにしました。


【実験内容】
①実験対象者にはできるだけ大声を上げてもらう。
②同時に1人、2人集団、4人集団、6人集団で行ってもらった。
③複数で大声を上げるとき、1人当たりの声量は変化するのか。

【実験結果】
①結果として、1人当たりの音の大きさは1人、2人集団、4人集団、6人集団の順で小さくなっていった。
②集団の人数が増えれば増えるほど1人当たりの仕事量は減少した。
③集団が増えれば増えるほど1人当たりの仕事量が減少することを「社会的手抜き現象」という。

 

ラタネらの研究によって大人数になればなるほど個人の作業効率が下がることが明らかになり、仕事量は個人差が出ることが裏付けられました。

この社会的手抜き現象は綱引きと似ています。

大人数で引っ張り合いますが、自分が引っ張らなくてもさほど変わらないんじゃないかと思ってしまう人も中にはいるかもしれません。

しかし、プロの綱引き選手は一人一人が自分の役割を把握してしっかり最大の力を発揮しています。

社会的手抜き減少は日常生活で起こる現象のようです。 

では、この手抜き現象は必ず起こるものであり、防ぐことはできないのでしょうか?

安心してください。

最近の研究によれば集団内での手抜きを防ぐ方法も研究が進んでいます。

集団内での手抜きを防ぐ研究もここで紹介しておきます。

ウィリアムズ(1989)は集団の中での「手抜き」を防ぐ方法を実験によって提言しているしています。

 

【実験内容】
①大学の競泳メンバー16名を4人ずつの4つのチームに分ける。
②それぞれのチームで個人の100mと400mリレーのタイムをそれぞれ計測してもらう。
③リレーの前に「個人のタイムはあとでおしえる」と伝えるチームと「何も伝えない」チームに分けた。

【実験結果】
①結果として「何も伝えない」チームは個人で泳ぐよりもリレーのラップタイムは落ちたが、「個人のタイムはあとでおしえる」と伝えられたチームは個人のラップタイムは早くなった。
②たとえ集団であっても、各個人の仕事量を評価するようにすると個人のパフォーマンスは下がらないことが明らかになった。

 

たとえ集団であっても各個人の仕事量を評価することにより、大きなパフォーマンスを得られることがわかりました。

目標が1つであっても、目標を細分化して評価してあげる事で個人の動機付けにもつながります。

目標を細分化して個人のモチベーションを維持する方法は「スモールステップ法」と呼ばれており、以前ブログでも紹介したので、ご興味ある方はそちらもご覧ください。

動機づけのブログはこちら

「やる気」についての一考察【科学的根拠あり】 - isetada’s blog

心理学の世界で大事なのは、その「現象が実在する」ことを知ることです。

知ることによって解決策を模索し、次へのステップを踏むことができます。

私も皆さんの不安や悩みを解消できるような知識を提供していきたいと思っています。

私も勉強の日々です。

 

【参考文献】

社会的手抜き減少については

Latane, B., Williams, K., &, S.(1979)Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing. Journal of Personality and social Psychology, 37, 6, 822-832.

社会的手抜きを防ぐ方法については

Williams, K. D., Nida, S. A., Baca, L. D., & Latane, B. 1989 Social loafing and swimming: Effects of identifiability on individual and relay performance of intercollegiate swimmers. Basic and Applied Social Psychology, 10, 73-81.